INTERVIEW

地方で小規模かつマイナーな本屋をやるということ

柴田哲弥×山下賢二:地方で小規模かつマイナーな本屋をやるということ
「コンビニもなく、夜は真っ暗。“文化の不毛な地”にブックカフェをつくる」

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 和歌山県新宮市にある「bookcafe kuju」を訪ねた。世界遺産に登録された「熊野古道」にもほど近い、古からの景観が残る情緒あふれる街。とはいえ過疎化が進む山あいの小さな集落である。
 市街地でさえ多くの書店が消えてゆく昨今、この店のオープンは本屋という商売と文化の両面に衝撃をもたらした。しかも「book」部分を担当するのは、あの京都の人気書店「ガケ書房」。
 オープンから8ヶ月を経た現在までの道のりと今後のビジョンを、カフェを運営するNPO法人「山の学校」主宰・柴田哲弥さんと「ガケ書房」店主・山下賢二さんの両名に、DOTPLACE編集長・内沼晋太郎が伺った。

取り壊しが決まった小学校との出合い

――ここができた経緯と、おふたりが一緒にお店をやることになった経緯を教えてください。

柴田哲弥(以下、柴田):ことの発端は3年前にあった紀伊半島大水害という災害ですね。僕はすでにその頃和歌山にいたんですが、こことは別の集落に住んでいまして。ここらは目の前の川が氾濫して大変やったみたいです。この校舎も水没して、近所の人たちもみんな避難してという状況だったそうで。聞いた話ではこのへんまで水がきた、と(教室の壁の2.5m超あたりを指す)。
 それから半年ぐらいたった時に、この校舎が取り壊しになるという話を新聞報道で知りまして。車で見に来て「ええ場所やな」と。窓から川が望めるし、「ここでコーヒー飲みながら本を読みたいなぁ」と。で、ダメもとで話を持っていって「地元の人が集まれるカフェがしたいです」「使わせてください」と頼みました。行政と半年ぐらい喧々囂々やって、なんとかオッケーが出て。
 最初にやったのは土砂とゴミの撤去ですね。そっから始めて、一年半くらいかな。一緒にやってるパン屋の林さんもすでにこっちに移住していたので、近隣の移住メンバーを集めたり、ボランティアさんもたくさん呼んで自分たちで改修をやりました。

bookcafe kujuが入居する旧九重小学校

bookcafe kujuが入居する旧九重小学校

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 山下さんとの出合いは『ナリワイをつくる』『フルサトをつくる』を書いた伊藤洋志がきっかけです。彼はよくここに来ていて、僕も学生の頃から知っていて。ここで本が読めるブックカフェをしたいという話をしていたんです。確か彼が、ガケ書房のイベントに出たんでしたっけ。

山下賢二(以下、山下):とある場所のイベントです。伊藤さんと対談を人前でして、知り合って。

柴田:彼がここの話をしてくれて縁ができて、のっかっていただきました。それまで僕はガケ書房のファンというか、単なるお客のひとりで。ほんまに来てくれるんかいなと思ってました(笑)。

bookcafe kuju店内。「bookcafe kujuとガケ書房をつないだ人たちの本」の棚も

bookcafe kuju店内。「bookcafe kujuとガケ書房をつないだ人たちの本」の棚も

――伊藤さんを通じて話がきた時は、最初から「よし、やりましょう」という感じだったんですか。

山下:いやいやいや、全然(笑)。僕、和歌山に来たこともなかったんですよ。しかも来る前から噂だけどんどん入ってくる。コンビニもないとか、夜は真っ暗とか。なんにもない、文化の不毛な地だと(笑)。

(ギャラリーから「意義あり(笑)!!」の声)

山下:いや、地元の生粋の文化はもちろんあるんですよ。でも消費としての文化の需要が見えないので、商売として考えたらありえないと思った。伊藤さんがなんかおもしろいことやってるけど、さすがにちょっと、と。でも条件がよくて。家賃も人件費も僕が負担しなくていいというのがあったんですよ。行政が支援をしてくれるので、ガケ書房は商品を選んでおろしてもらえればという話だった。
 そこでちょっと気持ちが軽くなって、じゃあまず一回視察に来てみようと。来てみたら確かに前は川、後ろは山なんですけど、新宮市街までが車で30分の距離だった。しかもそこにはTSUTAYAの本屋さんもある。「お」と思って印象が変わりました。
 最初は地元の子がコロコロコミックを買うのにも不便しているんだと思ったんですよ。だからガケ書房の本来のテイストではない、本当の意味でのマスの情報を売る本屋をやろうと思ってたんです。NHKの教材とかも置いてね。でもそれは全部TSUTAYAさんがすでに市街地でやっていたんです。「なんやあるやん(笑)!」と思いました。それだったらこっちで同じことやっても全然意味ないなと思って。本来のガケ書房のテイストでやったほうが差別化ができるしいいかなぁと思って、そこで発想を少し変えて始めたんです。

――その時にはもうやる気になっていたんですか。

山下:そうですね、2回ぐらいしかまだ来てないときですけどね(笑)。やっぱり商売じゃないですか、結局。それを継続させるってことは、シビアに考えると、僕自身の負担がないというのが大きいですよ。条件が揃ってたっていうのはひとつ理由としてある。でないと無理です。あと、30分で町から来られるというのも大きいポイント。隔離された地域だったとしたら、僕がどんなにがんばったとしても無理ですもん。
 土日のレジャーとして成立すると思ったんですよね。ここに来てパン買って、本買って、お茶飲んで、川で少し遊んだりもして。ここだったらなんとかお客さんの揺り戻しができるし、いいかなという判断をしました。

bookcafe kujuに面する北山川

bookcafe kujuに面する北山川

2/8「本当に本好きの人が来た時に『お』っと思ってもらえる本を」へ続きます

bookcafe kuju
2014年5月オープン。本格コーヒーをはじめとするドリンク類とスイーツが楽しめる。商品である本は「ガケ書房」が選書・卸を担当。同じ建物内にパン屋「むぎとし」がある。
住所:和歌山県新宮市熊野川町九重315 旧九重小学校
電話:0735-30-4862
営業:土・日 11:00~18:00
www.facebook.com/bookcafekuju
www.mugitoshi.com

構成:片田理恵
編集者、ライター。1979年生まれ。千葉県出身。出版社勤務を経て、2014年よりフリー。内沼晋太郎が講師を務める「これからの本屋講座」第一期生。房総エリアで“本屋”を目指す。
聞き手:内沼晋太郎(numabooks)
写真:長浜みづき
[2015年1月11日、bookcafe kujuにて]


PROFILEプロフィール (50音順)

山下賢二(やました・けんじ)

1972年京都生まれ。21歳の頃、友達と写真雑誌『ハイキーン』を創刊。その後、出版社の雑誌編集部勤務、古本屋店長、新刊書店勤務などを経て、2004年に「ガケ書房」をオープン。外壁にミニ・クーペが突っ込む目立つ外観と、独特の品ぞろえで全国のファンに愛された。2015年4月1日、「ガケ書房」を移転・改名し「ホホホ座」をオープン。編著として『わたしがカフェをはじめた日。』(小学館)、『ガケ書房の頃』(夏葉社)などがある。

柴田哲弥(しばた・てつや)

「bookcafe kuju」店主、NPO法人「山の学校」主宰。1984年生まれ。和歌山県出身。大学でコミュニティ政策を学び、2011年に熊野川町へIターン。廃校になった旧九重小学校を借り受け活動中。


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